NHK視ないTVドラマも時代劇も全くの無関心な人間なもので、田沼意次から松平定信にかけて2人が幕政の実権を握っていた18世紀後半を舞台とする『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』が、今年のNHK大河ドラマになってることなど全然知らなかったのですが、たまたまツイッターのTLへ流れてきた連投ポストに目が留まり、網野史学に傾倒してるものとして大いに興味深く拝見したので以下にメモがてら紹介。
「べらぼう」の差別描写がちぐはぐなのは「穢多・非人」の存在を透明化してるからだよ。
江戸時代の差別のど真ん中にいる彼等の存在を無視して、遊郭や芸能民・役者等の周縁身分の差別を描こうとするから無理がある。
黒人を出さずにアメリカの人種差別を描くようなもん。— 温泉ペンギン (@pen_pen2020) March 11, 2025
「べらぼう」の差別描写がちぐはぐなのは「穢多・非人」の存在を透明化してるからだよ。
江戸時代の差別のど真ん中にいる彼等の存在を無視して、遊郭や芸能民・役者等の周縁身分の差別を描こうとするから無理がある。
黒人を出さずにアメリカの人種差別を描くようなもん。— 温泉ペンギン (@pen_pen2020) March 11, 2025
ドラマでは良く大道芸人達の姿も描かれるけど、彼等のような芸能民は浅草の非人頭である車善七の支配下にあった。
そしてその車善七を更に支配していたのが江戸含む関東の穢多頭の弾左衛門。
江戸幕府は彼等のような賎民、吉原のような悪所をまとめて江戸市中から離れた浅草一帯に置いたのだ。— 温泉ペンギン (@pen_pen2020) March 11, 2025
更に言うと遊郭や賎民達がある浅草周辺は江戸城から見て鬼門である丑寅(北東)に位置する。
鬼門に徳川の祈願寺である浅草寺を置いて聖空間を作り、その周縁部に遊女や賎民、小塚原の処刑場を置き、更にご丁寧に牛頭天皇まで置いて、鬼門を封じ江戸城を守護しようというのが江戸の都市設計。 pic.twitter.com/TjPhDdMEYq— 温泉ペンギン (@pen_pen2020) March 11, 2025
江戸時代には差別があった、というより、江戸という都市は差別でできてる。
ドラマで、その差別構造の頂点にいる田沼意次と将軍に、蔦重や吉原の遊女屋達が「上様のご威光」をすがりに行くのって、中々にエグいと思わないだろうか。
自分は良いシーンだとは全く思えなかった。— 温泉ペンギン (@pen_pen2020) March 11, 2025
そりゃ、その時代を生きてる蔦重達はできる努力をしてるだけなんだけど、物語として、そういう江戸の差別的な権力構造を批判的な視点で描写することもなく、ただに遊女も忘八もみんな頑張ったね」的に自助努力を称賛するだけで終わるなら、それわざわざ大河ドラマでやる意味ある?と思ってしまう。
— 温泉ペンギン (@pen_pen2020) March 11, 2025
補足。
「穢多」や「非人」等という酷い言葉は、差別する側が押し付けたものである。
穢多頭の弾左衛門は自分では「長吏頭」と名乗っている。当時から彼等は、自分達は社会にとって重用な仕事をしている長吏(ちょうり)であると言い、「穢多」等と呼ばれるのは拒否しているのだ。— 温泉ペンギン (@pen_pen2020) March 11, 2025
全くもってその通りで、彼等が請け負ったのは、江戸の警察業務、清掃、死体処理、牢番、処刑執行等々、社会運営に欠かせない重用な業務ばかり。
「べらぼう」1話の明和の大火だって、大量の焼死体の処理をしているのは彼等だ。
そもそも浅草吉原の普請事業にも大量の非人達が動員されている。— 温泉ペンギン (@pen_pen2020) March 11, 2025
ドラマで田沼が準備した武具や馬具だって、牛馬の死体・皮革処理をする「穢多」身分の存在が欠かせない。
彼等の存在がなければ江戸の武家も町人達の暮らしも立ち行かない。
幕府は彼等の役割が重用だからこそ、江戸市中から隔離し、差別的な身分と特権を同時に与えて管理したのだ。— 温泉ペンギン (@pen_pen2020) March 11, 2025
これは遊女屋の経営者に特権を与えて遊女達を管理させ、男余りの江戸の町の性欲処理を担わせたのと同じ構図である。
賎民も遊女も江戸の町の「穢れ」をハライキヨメル役割があったからこそ、市中から隔離された周縁空間に置かれたのだ。https://t.co/qrWHH7kn8Y— 温泉ペンギン (@pen_pen2020) March 11, 2025
遊女も賎民もその起源は中世からある。
中世の遊女は芸能民でもあり、芸を披露するのと同時に春も売ったが、その経営権は遊女自身が持っていた。それが戦国時代になると遊女屋の男性経営者が人身売買で集めた遊女を管理、売春するようになる。
同じく賎民達も戦国武将達が武器生産に欠かせない彼等を— 温泉ペンギン (@pen_pen2020) March 11, 2025
自身の領内に抱え込み、支配の為、差別を強めていった。
これが江戸幕府により完全に制度化して、幕府公認遊郭や賎民身分の固定化になる。
明治の近代化以降もその本質は変わらず、遊郭は公娼制度、賎民は新平民として差別の構造は温存され、それが今なお続く部落差別や日本軍「慰安婦」問題につながる— 温泉ペンギン (@pen_pen2020) March 11, 2025
だから自分は吉原遊郭を理解するには被差別民の存在をセットで考えないといけないと思っている。
大河ドラマでも彼等の存在を透明化せずに、ちゃんと描いて欲しいのだ。
腫れ物扱いして触れるのを避けていては、いつまでたっても部落の歴史の実相が伝わらず、無知故の差別が再生産されてしまう。— 温泉ペンギン (@pen_pen2020) March 11, 2025
伸びてるので補足。
鬼門の反対、裏鬼門である丙申(南西)には徳川の菩提寺である増上寺、吉原と並ぶ江戸の二大遊郭である品川宿、車善七に次ぐ品川の非人頭の松右衛門、鈴ヶ森の処刑場、さらに同じく牛頭天皇も置かれ、鬼門と対を成した。
幕府のやることは抜かりないのだ。https://t.co/5obSrjEY0x— 温泉ペンギン (@pen_pen2020) March 11, 2025
なお「べらぼう」1話で遊女の死体を処理するシーンで(明示されないが)非人と思われる存在が出てくる。
蔦重が「罰当たりが」と吐き捨てるように言うのだが、死体の着物や遺品を取るのは非人に認められた正統な権利である。他の生産活動に従事することを禁じられていた彼等の貴重な収入源なのだ。— 温泉ペンギン (@pen_pen2020) March 11, 2025
まあ当時の町人である蔦重がそういうセリフを言うこと自体は否定しないのだが、何らかの補足が欲しかったところである。
なお、自分は気になってノベライズ版も買って確認したのだが、こちらでは地の文で「罰当たり」と説明してたので、なおのこと酷かった。
これは本当にどうかと思う。 pic.twitter.com/uLaKOesyB3— 温泉ペンギン (@pen_pen2020) March 11, 2025