日本の出版業界を揺るがすニュースが報道されました。
→『アンソロピックのAI学習向け書籍販売、日販が契約 米出版取次は拒否』
どういうことかというと、こういうこと↓です。
何のために書籍協会が、契約書テンプレートにAI不学習の項目盛り込んだか分かんなくなるな。
これが本当なのであれば、今回ばかりは軽蔑する。
真の敵は無能な身内とはよく言ったものだよ。
アンソロピックのAI学習向け書籍販売、日販が契約 米出版取次は拒否 https://t.co/v48R4Gvjs4— 名前を追加してください (@tanabe_w) September 4, 2026
つい先日も『AI訓練のために大量の古書・希少本を買い漁って用が済んだら訴訟回避目的で裁断処分した』悪業が表沙汰になったAnthropicですが、AIの養分にするためだけの理由で数千ないし数万(開示資料に“K”とあるので1K=1,000冊単位から10K=10,000冊単位まで可能性がある)の日本語書籍を買い求め、その取引に応じてっしまった取次の日販。いくら出版業界が不況だからって、米国本国の出版取次ですら拒否しているというのに、短期的利益のためにAnthropicへ書籍の売却を許した日販の行為は、犯罪の幇助と見做されて然るべきです。
しかもこれ、つい最近の出来事ではなく2年前のことで、日本のマスメディアが今頃になってようやく報道したということらしいので、もっと始末が悪いです。
やっと日本で記事になった
2月に裁判の詳細レポートを書いたし、noteに何本も書いてきた。だからなにを今更感が強め。裁判記録の添付資料から、日販の詳細だけでなく、この問題はどういう影響があるかnoteを書こうと思う。アンソロピックPanama訴訟の総集編になるかも。… https://t.co/aTZMwzH9S4
— Jun Ikematsu (@jun_ikematsu) September 4, 2026
今回の報道についての裏側の事情は池松潤さんのnoteにまとめとして詳しく書かれています。
→『Anthropic Project Panama訴訟・15億ドル和解は、何を終わらせ、何を残したか?』https://note.com/ikematsu/n/n8f78b129450f
著作権どうこうというだけでなく、「対価を支払って購入した所有物は買った者の好きにしていい」という動産の究極の所有権たる物権も、ことAI企業に関しては後々の悪影響を鑑みて物権の大幅な制約を講ずるべき時期に来ているでしょう。今の米国みたいに簡単にフェアユースを認めるなどといってAI企業に甘い態度をとってしまうと、日本の文化の崩壊に繋がります。建国の歴史が浅い米国とは文化の蓄積と奥行きの深さが違うのですから、AI産業を育てるとかいうて米国の真似をする必要はないのです。
◆アンソロピックのAI学習向け書籍販売、日販が契約 米出版取次は拒否【日経ビジネス:佐々木大智 2026年9月4日】
出版取次大手の日販が、米新興人工知能(AI)企業のアンソロピックに対し、大量の書籍を販売する契約を行っていたことが米国の裁判資料から判明した。アンソロピックなどAI企業は書籍を購入し、それを裁断してスキャン、電子データ化した上でAIの学習に利用していることが明らかになっている。日販はアンソロピックに対して、AI学習用に書籍を販売していた可能性がある。
アンソロピックと日販との関係が明らかになったのは、米国カリフォルニア州で2024年8月、アンドレア・バーツ氏ら3人の作家がアンソロピックに対して起こした米国における著作権侵害訴訟において。
バーツ氏らは、書籍をデジタル化したり、海賊版サイトから書籍データを入手したりしてAIの学習に利用することは著作権侵害に当たるとして、アンソロピックに対し、米カリフォルニア州北部地区連邦地裁に提起した。
この裁判は結果的に約15億ドル(約2400億円)で和解が成立し、26年7月に最終承認された。アンソロピックはバーツ氏らに和解金を支払うことになった。
書籍を合法的に入手、AI学習は「フェアユース」の範囲
開示された訴訟資料によればアンソロピックは、「プロジェクトパナマ」と呼ぶプロジェクトによって、「世界中全ての書籍を『破壊的にスキャン』する取り組み」を進めてきたことが分かっている。なお「破壊的スキャン」とは、書籍を裁断しスキャンを行うことで、非破壊的スキャンとは、書籍のページを開いた状態でスキャンすることを指す。
アンソロピックと提携していた書籍のスキャン事業者は、以下の方法でプロジェクトを推進していたことが分かった。まず、大量の書籍をパレットで搬入し、裁断機で背を切り落とす。書籍と書籍の間には区切り紙を挟んでおく。次に切り落としたページをスキャンしてファイル化。ファイルをアップロードした後は、書籍はリサイクル業者に引き渡される。
〔※裁判で開示された内部資料。関係者が書籍のスキャン事業に関わる倉庫を視察した写真には、大量の書籍が保管されていることがわかる(撮影=スタジオキャスパー)〕訴訟では、AI企業が著作物を大量入手してAI学習に利用することが、著作権上のフェアユース(公正な利用)に当たるかどうかが最大の争点になった。
裁判所は、書籍を合法的に入手し、裁断・学習するアンソロピックの行為については「フェアユース」であると認め、違反行為ではないとした。
理由は大きく3つ。アンソロピックが適法の範囲で購入した書籍であること。原本を破棄することで、1冊の紙の本を1つのデジタルファイルに置換し、追加の複製物を市場に流通させなかったこと。社内保管にとどまり、外部へ頒布していないことである。
一方で海賊版サイトからダウンロードした書籍データについては、複製されたデータが残っていることからフェアユースとは認められず、この点で約15億ドルの和解金が発生した。
著作権法に詳しい骨董通り法律事務所の福井健策弁護士は、「米国ではAI学習と著作権を巡る裁判は120件以上行われている。AI学習がフェアユースに当たるという判決はいくつかあり、これはそのうちの1つだ。今回の例では『学習』と『そのための複製』を分けて考えられた点に特徴があるが、これについては批判もある」と説明する。
この裁判ではAI学習についてはフェアユースが認められ、『学習のための複製』については正規購入と海賊版のダウンロードという取得方法によって判断が分かれた。
もっとも福井氏は「(AI学習による市場などへの影響を考えた際に)正規購入と海賊版のダウンロードの間に、それほど大きな違いがあるのかについては一考の余地がある」と指摘する。
アンソロピックは裁判結果について「(同社のAIモデル)Claude(クロード)の学習には、一般に公開されているウェブデータ、商業的に取得したデータセット、そしてアンソロピック自身が生成したデータを組み合わせて使用しています。書籍を調達して学習データとして活用することは、AI業界全体で広く行われている手法です。なお、アンソロピックのデータ取得プログラムにおいて、希少本や貴重な古書を購入した上で破棄するようなことは一切ありません」とコメントした。
日販がアンソロピックに大量の書籍販売契約
一連の開示された訴訟資料を精査する中で、アンソロピックが日本の出版取次大手、日販と書籍の販売契約をしていたことが判明した。
以下では日販とアンソロピックの取引について、裁判所に提出されたアンソロピックの内部資料から明らかになっている点をまとめた。なお裁判資料では黒塗りの部分が多くあり、金額などについては明確ではない。
24年9月18日のアンソロピックの社内資料には、日販との契約書のドラフトを作成している旨が記載されている。黒塗りがあるので詳細は不明だが、単位はKで数千冊規模であることがうかがえる。同資料には、契約金額の50%を前払いで、残りの50%を到着時に支払うという前提で、日販側がアンソロピックの財務情報開示を要求していることも記載されている。与信を取っていることからも大規模な取引である可能性が高い。
〔※裁判で開示されたアンソロピックの内部資料。日販の他にも韓国企業などと取引を計画していたことがわかる(撮影=スタジオキャスパー)〕翌月に当たる10月16日の資料では、「承認待ち」の項目に日販の名前が見られ、翌11月27日には「11月21日に成約済み」と記載されている。なお金額については数千から百万ドルの間の取引であると推察される。
米国では正規に購入した書籍をスキャンし、電子データ化してAI学習に利用することは「フェアユース」として認められた。日本の法律上では問題ないのか。
福井氏は、「米国と異なり、日本の著作権法ではAIによる学習だけを独立には扱わず、そのための複製を認めるかが論点の中心となる」と指摘する。実際、日本では著作権法第30条の4において、AI学習のための複製などは「著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用」、すなわち著作物の鑑賞などには該当しないとして、原則として違反に問われない。
文化庁のホームページでは以下のように説明する。「例えば人工知能(AI)の開発のための学習用データとして著作物をデータベースに記録する行為等,広く著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない行為等を権利者の許諾なく行えることとなるものと考えられます」
ただ日本法においても、例えば書籍とそっくりな表現を出力することを目的に、AI企業が学習のための複製を行う場合や、著作権者の市場を奪うなど利益を不当に侵害する目的で複製する場合などは、著作権侵害とされている。日本ではまだ判例がないため、AI学習のための複製などが、どういう条件で著作権違反と判断されるかは不明だ。
加えて米国でも判断には揺らぎがある。実はアンソロピックの裁判と同時期、同じ裁判所では、作家らが著作物のAI学習を巡って米メタを提訴していた。こちらは著作物のAI学習についてメタ側の主張が認められる形となった。ただこの件については、作家らの証拠が不十分だったという事情もある。裁判官は「著作権者が作品から収益を得る能力を大きく損なうような複製には、通常フェアユースは適用されない」とし、著作物を学習したAIが競合作品を大量に生み出し、元の著作物の市場を害する場合にはフェアユースは当てはまらない、という見方を示している。
「AI学習やそのための複製がフェアユースとして認められるのか、どういう条件で認められるのかについては、まだ議論が割れているとも考えられる」(福井氏)
AI学習と著作権、どちらを優先するのか
アンソロピックの裁判資料からは、アンソロピックに打診を受けた米国の出版取次大手イングラムが、AI企業への書籍提供にはリスクがあるとして取引を拒否したことも分かった。日販のように書籍を提供した会社が、著作権侵害をほう助したとして責任を問われるリスクはないのか。
福井氏は「今回のアンソロピックの判決に従うなら、正規購入した書籍からの複製は認められているから、販売者の責任は問われないだろう」と指摘する。
一方で「今後、正規購入した書籍についてAI学習のための複製が認められないとされた場合には、違法な複製を目的としていると知りながら大量に販売した業者が、ほう助責任を問われる可能性がある。もっとも、侵害行為との関連が小さくなればなるほど、その可能性は低くなる」
日販は日経ビジネスの取材に対し、「個別のお取引に関する情報は開示しておりませんので、回答は差し控えさせていただきます」と回答した。アンソロピックも日販との取引について「個別の取引先や取引内容に関するご質問については、回答を差し控えさせていただきます」と回答した。日販とアンソロピックの取引が現在も行われているかは不明だ。
日本の権利者側は一連の訴訟について、どのように受け止めているのか。
出版社の業界団体、日本書籍出版協会の生成AI関連ワーキンググループは「プロジェクトパナマ」について、「既存の出版ビジネスへの影響や、著作者の権利侵害につながる可能性に対する懸念はある。しかしながら、AI進化と利用がここまで急速に進んでしまった以上、利用そのものを禁止することはもはや現実的ではなく、権利者・出版者の権利と利益を守りつつ、共存のためのルールを模索していかなければならない時代に来ていると感じている」と回答した。
AI学習と著作権を巡る訴訟は、アンソロピックと作家らの訴訟以外も相次ぐ。AI学習と著作権のどちらを優先するのかについては、国ごとのスタンスの違いも浮かぶ。
米国は、AI学習が制限されるほうが国家の繁栄が妨げられるというスタンスが見える。実際、米司法省は26年9月、米新聞大手ニューヨーク・タイムズ(NYT)が米オープンAIの著作権侵害を提起した訴訟を巡り、AI学習に記事を使うことは合法だという意見書を提出した。意見書には「著作権で保護された文章を用いて大規模言語モデル(LLM)を学習させることが著作権違反であるという主張を裁判所が退けることは、米国政府にとって強大な利益がある」と記載されている。
日本は、技術の進歩と権利者の保護の両立を目指すという中立的なスタンスだろう。内閣府は8月25日、AI事業者に知的財産権の保護やデータの取得方法などの透明性確保を求める基本原則を策定した。当事者同士の自主的な対応を促す一方、これらの基本原則には法的拘束力がなく、どこまで実効性を担保できるのかはこれからだ。
AI学習を優先する方が社会全体にとって大きな価値を生むのか。それとも著作者の権利をより保護したほうが、豊かな文化を醸成できるのか。AI時代に社会全体に突きつけられた、大きな課題と言える。



